一区切り。
…やはり世間はエロなのか!エロスなのか!(何
地上で剣戟のような響きが木霊する中、グウェンドリンは再び上空にいた。今度は遥か上空ではなく、王に横付けするように迫っていた。相手の気を逸らす事も重要だが、最終的に喉元を討つ事を忘れてはならない。グウェンドリンは槍を構え、射程範囲に迫った。
「くくく…オーダインの娘よ、終焉を父と共に迎えなくてよいのか?」
突如、話しかけてくるバレンタイン王に戸惑うグウェンドリン。
「な、何を言う!」
作戦がばれてしまったのかと不安になる。
それを悟られないように、グウェンドリンはレヴァンタンに向けて槍を大振りする。
「終焉は来るのだぞ。エリオンの地に住まう者ならば、神であろうとこの運命からは逃れられん。なぜ無駄な抵抗をする?苦しいだけではないか?辛いだけではないか?」
それは悪魔の囁きか、死神の誘いか。
バレンタイン王は不気味な笑みを浮かべながら、グウェンドリンに妙な話を語り出した。
「この期に及んで、何を言う!」
「レヴァンタンの煉獄の炎を浴びれば苦しむことなくお前の姉、グリゼルダの元へ逝けるというのに。恋しいであろう?」
「姉様を冒涜する気か!黙れっ!王といえど、お前は…お前だけは絶対に許さぬぞ!」
妙な事に、戦場で散った姉の話を持ちかけられ、グウェンドリンは徐々に冷静さを失い、怒りを顕わにしてきた。
バレンタイン王が言う事は、尊敬して憧れていた姉を種に、死んでくれと言う事と同じだった。
それは姉が許さない。戦場を翔る翼、ワルキューレとして姉も在ったのに、その妹が抗うことなく口先だけで折れてしまうとは何事かと、姉の元へ逝っても怒られてしまうだろう。
何より、ここで死ぬわけにはいかない。守るべき者があるのだから。
「レヴァンタンの炎でお前を焼き、コルドロンの糧に……ぬ、ぬ、何だ…どうした、レヴァンタン!」
王の話が途切れたことに、心頭に発した怒りが失せる。
急に、レヴァンタンの動きが鈍くなった。
同時に、レヴァンタンが大きく苦しそうな咆哮を上げた。
その声に我に返り、グウェンドリンは咄嗟に、地上を見た。
「グウェンドリン!今だっ!」
眼下には作戦の通り、レヴァンタンの下腹部辺りに剣を突き刺したオズワルドの姿があった。
オズワルドの鋭い強大な一撃が決定打となったのだ。
視界にはレヴァンタンの腕がオズワルドに向けて迫っていた。
考えている余裕はない。グウェンドリンは槍を握りしめ、叫んだ。
「てやあああぁぁっ!!」
振り翳した槍が、レヴァンタンの喉元に奥深く突き刺さった。さらにレヴァンタンが藻掻き苦しむ。
「この五月蠅いハエめ!レヴァンタン、身体を振れ!振り落として潰してしまえ!」
「そんなこと、させない!オズワルド様、いきます!」
グウェンドリンが叫び、目を閉じた。
オズワルドもその合図に目を閉じる。
刹那、青と赤のサイファーに大きな光が集まりだす。
「聖なる炎よ…魔石に集いて悪を浄化する力となれ!」
二人の声が響いた。
すると、まばゆいほどの光が集まり、一気に視界を奪われた。
その光が辺りを覆い真っ白になった瞬間、二人のサイファーから凄まじい熱と光のエネルギーが放たれた。
瞬く間に、爆音と共にレヴァンタンの巨躯が爆発する。
断末魔も許さぬ程の破壊力。身体は辛うじて骨を残し、粗方が原形を留めない程、吹き飛んだ。
「な…!?……なんだと!…儂の…レヴァンタン…が……ぐああああ!!」
この事にはさすがのバレンタイン王も驚きを隠せなかった。
何より、自らの身体にも飛び火して、全身を聖なる炎が包み込み、朽ちた身体を焼き焦がしていたのだ。
サイファーに蓄積されたフォゾンの力を一瞬にして一点に集中させ、そのフォゾンを聖なる炎の力に変えて炸裂させる奥義、フォゾンバースト。それをサイファーの先端にのみ集中させ、鋼鉄より固い鱗を抜けて内部より発動させた事で、レヴァンタンは内部から大爆発を起こしたのだ。上半身と下半身、それぞれに爆心があったことで、何も抗うことなくレヴァンタンは黙した。バレンタイン王もその聖なる炎に焼かれ、動かぬ骸となった。
直後、死の匂いを感じたのか、どこからともなく死神レイスが現れ、手に持つ鎌で二人の亡骸を掬い取るように切り取ると、オズワルドを一瞬睨んだ後、空間の中へと消えていった。
その視線に、先ほどの影の事が脳裏によぎった。力を借りずとも竜を倒したことに、ざまを見ろ、と心の中で一瞬思った。
「姉様はもう居ない。だからこの槍を私に託した…私自身の力と意志で前に進んで欲しいと願う、その遺意を伝えるために」
大地に降り立ち、槍を抱くグウェンドリンの閉じた瞼から、姉への感謝の気持ちと共に少しだけ、溢れる想いがあった。