どうも。めでたく10連載!
どうも。
それまでは何の音もなかったのに、背後から急に野太く低い声があがったことに振り向く。
そこには、見たことのある姿があった。
「貴様は…」
「魔石の所持者に比類なき力を与える者…」
それは、影。
全身真っ黒、闇の人間のような、獣人。
目だけ爛々と、赤く輝かせて立っている。
「これは、お前の仕業か…いや、お前の仕業だな?」
「我はお前の、愛する者のために戦う姿に感銘を受けたのだ。少しお前と話をしたくなった。だからこうして表立ったのだ」
もう一人の自分。
竜の命すら手玉に取る、”力”の存在。
何やら聞き慣れない口調に怪しげな様子。凄みを効かせて影をにらみつけて警戒しながら叫んだ。
「答えろ…用件は何だ!」
「蛇の竜相手に苦戦しているようだな。このままでは愛する者共々、手遅れになりかねないだろう」
それは半分正解だった。
自分が考えた作戦が正しいかなど、分かるはずがない。今の作戦で命を落とすかもしれない。
「まだ…決まったわけではない。俺は、絶対に負けない!」
「その意志は結構だ。結果というのは、事が通り過ぎた後に着いてくるもの。良い結果に向けて吼えるのもよい。が…お前達の力で勝てるかどうか。結果は別問題なのだ」
影の言うことに一理はあった。
「だからどうしたというのだ。まだ負けてはいない…」
「お前と取引がしたい」
身体に強烈な負担がかかるが、重苦しい死の香りを纏う事で力を得てきたオズワルド。
それ以上に何があるというのか。取引という言葉に、少し心が揺らいだ。
「…どういうことだ?」
「今よりさらに多くの、新鮮な命を我に与えよ。さすれば今の力よりさらに増幅された新しい力をお前に与えよう」
「な…戯れ言を言うな!命を吸う闇の、お前の新たな力なぞ借りるものか!」
グウェンドリンという守り抜く者が出来たというのに、自らの命をこれ以上無駄に削りたくはなかった。
これ以上は懲り懲りだった。死の国に付け回される、なんということは。
「去れ!時を元に戻せ!俺は俺の力でレヴァンタンを倒し、平和を取り戻す!」
「お前を気に入っていたのだが、残念だ…。ククク…平和などという甘い幻想、抱かぬ方が良いぞ。もしここであの竜を倒したとしても、終焉によって世界は終わるのだからな。今度は深窓のご令嬢を守り切れぬだろう。お前諸共、な」
それだけ言うと、影は目の前から一瞬で姿を消した。
「くそっ………何だと…いうんだッ!」
レヴァンタンを斥ける力は確かに欲しかった。
しかし、今のような症状は初めてだった。突如世界が止まり、目の前の色がなくなったことで、魔剣により命を吸い尽くされ、死んだのかとさえ思った。
だいぶ削られてはいたが、今ある灯火を消されてしまっては、魂の冒涜者となり世界を彷徨い続ける羽目になってしまう。
それだけは、避けたかった。
だから、力を欲したかったが、出来なかった。
「やってやるさ…。俺の力で…俺の力だけで勝つ!」
目の前が逆回りに、元の世界に戻り出す。
徐々に時間が戻り出したようだ。
「さあ…来るがいい!」
レヴァンタンの腕が動き出した瞬間、オズワルドは攻めだした。