や(略
ちょっとバレンタイン王の人が変わってる気がする!
いや、でもまぁそういう設定でいいんじゃね。あいつとことん悪者っぽいもん(ぉ
1章1幕…古城近くの遊歩道
オズワルドが古城から少し離れた遊歩道まで降りてくると、遥か上空に浮かぶ影の動きが変わった。
明らかにオズワルドを狙い、急降下をしてくる影。それは徐々に近づくに連れて、正体を明らかにしていった。
オズワルドは視界に入り、顕わになった姿を見て、はっとして息を呑んだ。
飛んでいる者は、長く、巨大な竜だった。
見たこともない竜がこちらに向かって降りてくる。
オズワルドは剣を構えた。
身構えたオズワルドに竜が急降下を嗾ける。ついでに大口を開け、飲み込んでやろうとオズワルドに迫った。
「!」
間合いに入った所で、急に速度を上げて襲いかかってくる竜に、身をかわすのが精一杯だった。間一髪、遊歩道の石橋に身を寄せ、竜の口を回避する。物凄い勢いで自分の身体の上を、風と共に切り裂いていくのが分かった。
これが終焉に導くという予言の竜なのか?
不安と緊張が、辺りを包んだ。
「何者だ、お前は…」
オズワルドを狙ったが回避された事で竜は大きく旋回し、オズワルドの前に降りた。
「何奴かと思えば…黒い剣士か」
オズワルドには聞き覚えのある、乾いた声が、竜の頭の上から辺りに響く。
声の主を見上げると、そこには酷く朽ちた服を纏った、年老いた小さな骸が細く声を上げていた。
「お前は、バレンタイン王!」
「久しいな…火の国以来か」
細いながらもどこか余裕のある声でゆっくりと喋りながら、悠々と竜の頭から身体を伝って降りてくる。
間近で見るその竜は、上空で見るより長い身体を持っていた。まるで蛇のように。
「この竜は…あの時の火竜か!」
火の国で相見えた時は、続く猛攻の後。
火山の暑さと炎の魔物との戦いによる疲労が蓄積されていたが、幼竜とはいえ恐ろしい程に力の差を見せつけられた。
力の差は歴然としていた。最終的にオデットの呪いがオズワルドの五体を縛りつけ、動けなかった所を間一髪、グウェンドリンが助太刀に入った事でその場は凌がれたのだが、例え呪いがなく自由に動けたとしても、あの戦いではどちらに決するか分からなかっただろう。
「いかにも。この何者にも超えられぬ凄まじき力、まさに終焉の予言の竜となりうるであろう。結晶炉コルドロンを手にする前に、手始めにこの地を端から燃やしてやろうとレヴァンタンに力を注ぎ急成長をさせたのだ。この金の魔石でな」
バレンタイン王は被っていた王冠を手にとって、オズワルドに見せつけた。
魔石はコルドロンが無ければ作れないはず。しかしバレンタイン王はコルドロンの有事に備えて、力を分けて保存しておいたようだ。その塊が、あの金の王冠だという。単なるバレンタイン王の冠だと思っていたのに、あれが魔石から作られている事に、オズワルドは吃驚した。
「金の魔石は力の吸収を早める力を持つ…レヴァンタンが生物からフォゾンを奪い、この冠で増幅させたらこの成長結果だ。結晶炉コルドロンから力を奪えば一瞬であろう…終焉を迎えるまでもない。儂がこの世界のすべてを無に返してくれるわ…くくく…」
と言いながら、被っていた王冠をレヴァンタンにかぶせるバレンタイン王。次世代の王の早い誕生に、満足げに薄ら笑いを浮かべながら。
竜の成長は気の遠くなる時間を要するはずなのに、目の前に居るレヴァンタンはすでにかなり育っていた。火の国で一戦を交えたときはこの世に生を受けたばかり、オズワルドの背丈の半分ほどしかなかったというのに、目の前に居るのはまるで成獣…その姿は蛇の竜とはいえど、ワーグナーやハインデルなどをゆうに超えている程の大きさであった。
「護るものが出来たこの世界を、終焉になど導かせるものか!…お前とはここで決着をつける。死の国へ送り返してやる!」
剣を握りしめ、身構える。
肩の辺りから背中をぼうっと、黒いオーラが出始めた。その瞬間、オズワルドの姿は真っ赤に光る目を持つ、漆黒の悪魔へと、姿を変えた。
…それは目にも留まらぬ速さであった。
しかしその高速の斬撃であったにも拘わらず、レヴァンタンがものともせずかわしてしまった。想像以上に竜の力が育っていたのだ。
オズワルドはあの時の幼竜とは訳が違う事に、眉をひそめた。