こっから急展開。
序章3幕…森の古城・森の古城の寝室
真夜中。
いつしか風も穏やかになり、巨大な満月も南中して、ゆったりとしたベッドに一緒に寝る、二人の寝息だけが静かに聞こえる夜の世界。
少し冷たい夜の中、ゆっくりと時だけが流れる。
久しぶりに訪れる静寂と平穏の最中、月光が一瞬、何者かの影を落とさせた。
刹那。
遠くから聞こえる、天を切り裂く、何者かの咆哮。
「……?」
それは、辺りに轟かせ、古城を揺るがす程の獣の叫び。
部屋にかかった赤いカーテン、ベッドにかかる赤いキャノピーまで、その声によって震う。
「何だ…!?」
音に驚いて飛び起きたオズワルドは、テラスから空を見上げた。
遙か遠く、月の上に浮かぶ、黒い何かが見えた。実体はとてもこの距離では確認できない。
が、この距離であれほどの声を響かせ、空を飛ぶ者…答えは一つしか浮かばなかった。
「あの影はまさか竜か!…いや、竜は俺がこの手で…だとすると、何だ…?」
ただごとではないと感じたオズワルドは、すぐに黒い甲冑に身を纏った。
確かに竜はすべて、己の魔剣で葬り去ったはず。考えられるのは三賢人の何かか、残るは死の国の何かか、火の国の動きか…。
様々な案が浮かんだが、あれはきっと不穏なものに違いない。あの影の真相を確かめるために、剣を手に取った。
「オ、オズワルド様…?」
気を緩め、すっかり眠りこけていたグウェンドリンが寝惚け眼で、何やら慌てているオズワルドに声を掛けた。
深い眠りから急に目覚めた事で、まだ腰を起こした所でベッドの中でぼーっとしていた。そんなグウェンドリンを見てオズワルドは、心配しなくていいがミリス達を頼むとだけ告げ、部屋を急ぎ足で出た。
(オズワルド様…先ほど聞こえた、竜のような叫び声は一体?…何かある…オズワルド様の力にならないと…)
寝惚けた身体を起こすと、グウェンドリンもドレスを脱いでワルキューレの鎧を着込み、部屋を出た。
石段を駆け下り、下の階へと入る。
ちょうどグウェンドリンとオズワルドが寝ている寝室の真下にミリスの部屋が、向かい側にブロムの部屋兼工房があった。
「二人とも、起きて!起きて!」
互いのドアを開け放ち、起きるように大声を上げる。
その声でミリスが目を覚ました。視界に慌てるグウェンドリンが入り込み、ミリスはぎょっとした。
「グ、グウェンドリン様!?如何なされましたか?」
起こす側と起こされる側が普段とは逆の事に驚きながら、寝間着姿のミリスは腰を起こした。
「何か分からない…けど、何か巨大な影が空を飛んでいるの。ここは危険かもしれないから、すぐに避難できる準備だけはしておいて!」
「むむむ…む、な、一体何が…」
ブロムもこの騒ぎに目を覚まし、ミリスの部屋の前までやってきた。
「ブロムさん、ミリスを御願いします!私はオズワルド様を追います!」
それだけ言うと、ブロムには特に何も言わず部屋を出て、石段を大急ぎで下りていった。
「な、何があった。さっきの大声は夢ではないのか?」
「確かに聞こえましたわ…まるで、竜のような声が。ブロムさん、避難の準備をしましょう。グウェンドリン様達に迷惑のかからないよう…」
「う、うむ。オズワルドまで出て行ったと…もしや」
ブロムは一人、焦っていた。
ここでまた命を削る事になると、咄嗟に悟った。